研修医の頃、こんな場面に出くわしませんでしたか?
自分は30分かけて問診を取ったのに、指導医が患者さんと5分話しただけで「これ、〇〇じゃない?」とサラッと言う。
「いや、なんで分かるの?」
同じ患者さんを診ているはずなのに、見えているものが違う。あの感覚、なんとも言えないですよね。「どうやって、あんなに早く診断に辿り着けるんだろう?」って。
その答えの一つが、OPQRSTの使い方にあります。
最重要はO(発症様式)とT(経過)
まず最優先で聞くべきは、「いつから/どう始まったか」「その後どう推移したか」。これが診断を絞り込む上で一番大事です。
なぜか?それは発症様式と経過が、疾患の病態そのものを反映するからなんですよね。
3時間前からの歩きにくさでパーキンソン病は考えないし、3年前からの頭痛でくも膜下出血は考えない。パーキンソン病は年単位で進行する変性疾患だし、くも膜下出血は分・時間単位で進行する血管性疾患だから。
イメージとしてはこんな感じ👇

3つの曲線が、それぞれ違う時間軸で症状が立ち上がっているのが見えると思います。
実際のERでは、こんな場面があるんです。
〜ER実況〜
「先生、頭痛の患者さんです!」
研修医、丁寧に問診を取り、満を持してプレゼン開始。
「54歳男性。既往は高血圧。喫煙20本×30年、飲酒は——」
そこで指導医、ストップ。
「発症様式は?」
「あ、突然発症です。PC作業中に、急に殴られたような頭痛が……」
「それ先に言って。今すぐ頭部CT。」
“突然発症”の時点で、くも膜下出血や動脈解離など、一刻を争う疾患が鑑別に入るからです。“どう始まったか”——それだけで、次の一手が決まります。
発症様式ごとに、考えるべき病態と検査の方向性はこんな感じです。
- 突然発症 → 画像で分かる病態(解離、出血、捻転、梗塞、骨折)
- 急性発症 → 血液検査で分かる病態(炎症、代謝異常)
- 緩徐発症 → 病歴・身体診察で分かる病態(神経変性疾患、精神疾患)
OとTを掴めば、「次に何をすればいいか」まで見えてきます。突然〜急性発症ならまず検査を、緩徐発症なら腰を据えて問診を——“診察における時間の使い方”その判断ができるようになるんですよね。
次に有効なのはP(増悪寛解因子)
OとTで病態が絞れたら、次は原因臓器を絞り込みます。そこで活きるのがP(増悪寛解因子)です。
「動くと痛い」「食後に悪化」「立っているとラク」——こういう情報、何を教えてくれると思いますか?
実はこれ、症状の原因となる臓器を示してくれるんです。
- 深吸気で増悪する胸痛 → 胸膜・心膜
- 労作時の胸痛 → 心臓
- 嘔吐で楽になる嘔気 → 消化管
- 嘔吐しても変わらない嘔気 → 消化管以外(代謝性・中枢性)
面白いのは最後のパターン。「吐いてもラクにならない嘔気」は、消化管が原因じゃないことがあるんですよね。代謝性疾患(DKA、副腎不全、高Ca血症など)や中枢性疾患(頭蓋内圧亢進など)が鑑別に上がります。
こんな経験、ありませんか?
〜ER実況〜
「先生、嘔気の患者さんです!」
58歳女性、3日前から嘔気と嘔吐、食欲低下。 研修医、消化管病変を疑い腹部CTと採血をオーダー。
——CT異常なし。採血も大きな異常なし。
「うーん、どこも引っかからないな……」
困った研修医、指導医に相談。 カルテを見た指導医、ひとこと。
「吐いたら、ラクになるって言ってた?」
「……あ、そこは聞いてないです」
聞きに行くと、患者さん。 「吐いても、全然変わらないんです」
「じゃあ、消化管じゃないね。Ca追加で¹。」
——補正Ca 13.5。高Ca血症でした。
嘔吐で軽快 → 消化管
吐いても変わらない → 消化管じゃない
吐いているのに、原因は胃にない。増悪寛解因子は、”原因臓器の住所”を教えてくれるんですよね。
このように、O・T・Pを知ることで病態と臓器が特定できます。
大動脈解離、肺炎、脊髄小脳変性症——病名から分かるように、診断は臓器+病態で定義されることが多い。
つまり、病態と臓器が分かれば診断の大枠が掴めるんです。
¹実際にはCaのみではなく、代謝性鑑別を広げるため血液ガスや副腎機能なども含めて追加オーダーします。
R(部位/随伴症状)は”主訴外”の情報がカギ
Rは臓器の絞り込みに使えますが、そもそも問診票の主訴欄に部位は記載されていることが多い。
そのため、改めて聞く必要がない場合もありますが——
- 心窩部痛 → 胃十二指腸・肝胆膵
- 右下腹部痛 → 虫垂・卵巣・尿管
このように腹痛などの場合は、区画を細かく分けることで臓器の鑑別に有用な場合もあるんですよね。
そして、本当に大事なのは”主訴に含まれていない随伴症状”を拾うことです。
- 胸痛+冷や汗 → 心血管系
- 発熱+咳嗽 → 肺病変
- 頭痛+視覚症状+顎の疲れ → 巨細胞性動脈炎
こんなケースもありました。
〜一般外来、ある日の一コマ〜
「先生、頭痛の患者さんです!」
72歳女性、3週間続く頭痛。 頭部CTは——異常なし。
困った研修医、指導医に相談。 カルテを見た指導医、表情が変わる。
「目の症状や、顎の疲れ、ない?」
「……あ、そこは聞いてないです」
聞きに行くと、患者さん。 「実は、左目が見えにくくて、噛むと顎がだるくて……」
「じゃあ、ESRとCRP。側頭動脈も触ろう。」
——ESR 98、側頭動脈に圧痛。 巨細胞性動脈炎でした。
放っておけば、失明していたかもしれません。
「視覚症状+顎跛行」で巨細胞性動脈炎。
頭痛で来た患者の正体を、CTではなく問診が暴く——これがRの威力です。問診票に書かれていない随伴症状を一問拾えるかどうかで、診断はまったく違うところに着地するんですよね。
Q(性状)・S(重症度)はおまけ
O・T・P・Rで診断の大枠は掴めます。診断という意味ではQとSは、正直そんなに使いません。
Q(性状)は基本聞かなくてOK。「ズキズキ」「焼けるような」では鑑別が絞れないからです。
例外は「ピリピリ」「痒い感じ」。話の中でこれが出てきたら、皮膚や神経の病変を考えます。帯状疱疹なんかが代表ですね。ただ、自分から聞きに行く必要はなく、出てきたらピンとくれば十分です。
S(重症度)も診断の絞り込みには使いにくい。症状の程度は患者さんの主観に左右されるからです。大動脈解離でも痛がらない人もいれば、緊張型頭痛で激痛の人もいます。
ただし、Sはラポール形成で活きる。重症度を聞いて、患者さんの辛さがリアルに伝わってくると、こちらも自然と「大変でしたね」という言葉が出てくる。その一言が、信頼関係を生むんですよね。
まとめ:OPQRSTの”悪魔的”な使い方
OPQRSTは均等に聞くものじゃありません。O・T → P → R → Q・S の優先順位で使い分けるのがコツ。
- O・T(発症様式・経過)で病態を絞る
- P(増悪寛解因子)で臓器を絞る
- R(部位・随伴症状)で臓器をさらに絞る
- Q・Sは鑑別ではなく、ラポール形成・特殊状況で使う
「全部聞かなきゃ」から、「優先順位をつけて聞く」へ。
これだけで、診断の精度も、外来の回し方も、大きく変わります。
そして覚えておいてほしいのは、CTで映らないものを、問診が暴くことがあるということ。OPQRSTはただの問診の枠組みじゃなくて、診断推論そのものを駆動するツールなんですよね。
研修医時代の自分に教えてあげたかった、OPQRSTの本当の使い方。よかったら明日からの外来で試してみてください。
— 明日の外来が、ちょっとラクになりますように。
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