外来で発熱の患者さんを診るとき、研修医の先生から「何を疑えばいいですか?」と聞かれることがよくあります。鑑別を考えるのはもちろん大事なのですが、私自身は「今この時点で、何をすべきか」を先に決める方が、外来の現場では迷いが減るなと感じています。
ただ、「何をすべきか」と一口に言っても、患者さんによって状況がまったく違います。咽頭痛を訴えている人と、何の局在症状もなく1週間熱だけが続いている人とでは、当然、次の一手が変わってきます。
そこで自分の頭の中では、まず「局在症状があるかないか」で大きく分岐させて、局在症状があればその臓器に直接攻めに行く、局在症状がなければ「経過日数」で次の検査を決める、という二段階で整理しています。
この記事では、この二段階アプローチの考え方を、3つの症例とあわせてまとめてみました。
全体像:まず局在症状の有無で分ける
全体像はこのシェーマのとおりです。

最初の判断ポイントは「局在症状はあるか?」のひとつだけ。ここで左右に分かれて、考えるべき検査がガラッと変わります。
では、それぞれのブランチを見ていきましょう。
局在症状あり → そこを直接攻める
局在症状がある、つまり「どこの臓器の問題か」が手がかりとして見えているとき、私はあまり広い検査を投げません。その臓器に直接アプローチする検査を選びます。
具体的には、こんな対応です。
咽頭痛 → 咽頭抗原検査
咽頭の所見が中心なら、まずは咽頭抗原検査。インフルエンザ・COVID-19・A群溶連菌あたりがまず押さえるべき対象です。考えるべき疾患は ウイルス性上気道炎、扁桃炎 が中心になります。
呼吸苦・咳嗽 → 胸部画像
下気道の所見が中心なら、胸部レントゲンやCT。考えるべきは 肺炎、膿胸。
関節痛・腫脹 → 関節穿刺+関節液鏡検
単関節か多関節かを確認したうえで、単関節炎なら関節穿刺は外せません。化膿性関節炎、結晶誘発性関節炎の鑑別は、関節液の細胞数・結晶・グラム染色へ一気に進みます。
排尿症状 → 尿検査
尿路系の所見があれば、まず尿検査。膿尿・細菌尿・血尿の確認で、膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎が見えてきます。
局在症状なし → 期間軸で考える
問題は、局在症状がはっきりしないときです。
問診と身体所見を一通り取っても、どこから熱が出ているか手がかりがない。こういうときに「とりあえず広く検査を投げる」のは、検査前確率の低い段階で偽陽性を増やすだけになりがちです。
ここで頼りになるのが 経過日数 という軸です。同じ「原因不明の発熱」でも、3日目と14日目では検査前確率がまったく違うので、期間で打ち手を分けて考えます。
3つの症例を通じて、各期間で何を考えるかを見ていきましょう。
ケース①:3日目の発熱 ─「+αが、ない」
症例:38.5℃、発症3日目。咽頭・呼吸器・尿路・関節、どこを聞いても訴えがない。
研修医の先生は「発熱は+αを探せ」と教わってきます。でも、+αが見つからないとき、思考が止まってしまうことがあります。
この段階で考えること:≦5日は「COVID/インフルを評価したうえで、基本検査」
5日以内の発熱で、まずやるべきは「見逃すと命に関わる感染症」を拾うことです。流行期ならCOVID-19・インフルエンザの迅速検査をまず押さえたうえで、基本検査はこの4本柱で考えています。
- 血液検査 → 胆管炎
- 胸部レントゲン → 細菌性肺炎
- 尿検査 → 腎盂腎炎
- 下肢の視診 → 蜂窩織炎
「血液検査では胆管炎を、胸部レントゲンでは細菌性肺炎を、尿検査では腎盂腎炎を」と、検査と疾患をペアで意識すると、結果の読み方もブレにくいなと思っています。
個人的に強調したいポイント:下肢の視診
最後の下肢の視診は、自分が外来初学者の先生に必ず伝えるようにしているポイントです。蜂窩織炎は熱源として隠れがちで、患者さんが自分から「足が赤い」と訴えてくれないこともあります。服をまくって、裸足になるまで脚を診る。これだけで拾える発熱がかなりあります。
「+αを探せ」という教えは大切なのですが、+αがないように見えるときこそ、検査と局所の身体所見の組み合わせで網を張り直す、という発想が活きます。
ちなみに、このタイミングでEBV/CMV抗体や高額な特異的検査を出したくなる場面もあるかもしれませんが、発症初期は抗体陽転前で偽陰性になりやすく、検査前確率も低いので診断的価値は限定的です。
ケース②:10日前からの発熱
症例:、10日前からの発熱。局在なし、胸部レントゲン異常なし、尿検査異常なし、血液検査はCRP高値のみ、下肢も綺麗。 研修医「……私の検査の出し方、間違ってる?」
ケース①で学んだ4本柱を全部やった。それでも何も見つからない。研修医の先生がよく抱える「自分のやり方が間違っているのでは」という不安が出てくる場面です。
ここで強調したいのは、検査の出し方は合っているということ。ただ、次のフレームに進むタイミングが来ている、ということです。
この段階の核心:「ここまで熱が続くこと自体が、ある疾患の事前確率を上げる」
ここが、私が研修医の先生と話すときに一番強調したいポイントです。
5日以内に考える発熱疾患は、本来このタイミングまでに自然軽快しているか、もしくは重症化して臨床像が変わっているはずなんですよね。インフルエンザもCOVID-19も、典型的な急性ウイルス感染症は5日くらいで解熱に向かう。細菌性肺炎や腎盂腎炎なら、抗菌薬で改善するか、あるいは敗血症化して別の管理が必要な状態になっているはず。
つまり、「5〜14日も熱が続いている」ということ自体が、別カテゴリの病気の事前確率を押し上げているわけです。所見を待ってから鑑別を広げるのではなく、期間の経過そのものに導かれて鑑別を切り替える、という感覚です。
5〜14日:造影CT・血液培養・胸部画像・特異検査
ここで追加するのは、検査と疾患のペアで以下の4つです。
- 造影CT → 深部膿瘍
- 血液培養 → 感染性心内膜炎
- 胸部画像 → 非定型細菌(マイコプラズマ/クラミジア/レジオネラ)
- 特異検査 → ウイルス(EBV/CMV/HIV)
※非定型細菌はまだ検査されていなければ意識して画像評価が必要です。
このケースの患者さんは、血液培養2セットからStreptococcus属が陽性となり、心エコーで僧帽弁に疣贅、感染性心内膜炎の診断となりました。10日続く不明熱に対して、初診時のCRP上昇のみから感染性心内膜炎を当てるのは難しい。でも「経過が、鑑別を教えてくれる」という発想があれば、5〜14日の検査群として血液培養に辿り着けます。
ケース③:80代女性、3週間続く発熱 ─「全部陰性。一体、どうすれば…」
症例:80代女性、3週間続く発熱。局在症状なし、造影CT・血液培養・特異検査すべて陰性、血液検査はCRP高値のみ。 研修医「……一体、どうすれば」
ケース②で学んだ検査群も全部やった。それでも何も見つからない。3週間も熱が続いているのに、熱源が一切ない。この手詰まり感は本当にしんどいものです。
感染症”以外”も検討し始める時期
発熱が14日を超えてくると、いわゆるFUOの定義に近づいてきます。ここからは感染症の割合が相対的に減っていくため、感染症の可能性も並走させながら自己免疫疾患や悪性腫瘍も評価していく時期です。
≥14日:特異検査・PET-CT・組織生検
追加すべき検査はこのあたり。
特異検査
- ウイルス…EBV / CMV / HIV
- 細菌…結核(IGRA)
- 自己免疫…ANA / RFなど
- 腫瘍…sIL-2R
ウイルス抗体も自己免疫マーカーも腫瘍マーカーも、結局はどれも「特異的指標で対象疾患を狙い撃つ検査」なので、まとめて「特異検査」として捉えると整理しやすいです。鑑別は感染症(ウイルス・結核)から自己免疫疾患(膠原病・血管炎)、悪性リンパ腫まで幅広くカバーします。
画像精査
- FDG PET-CT
組織生検
- 非侵襲的検査で診断がつかない場合、リンパ節・肝・側頭動脈・骨髄が最も診断率が高い
このケースの展開
このケースの患者さんでは、80代女性という年齢から大血管炎を考慮して、生検できる部位もないためFDG PET-CTを実施。すると大動脈、側頭動脈に高集積を認め、側頭動脈生検で巨細胞性動脈炎の確定診断に至りました。
「高齢者で局在の乏しい長い経過の発熱」を見たら、大血管炎を考慮する必要があります。これは年齢×期間×局在の有無、という3つの軸の組み合わせから引き出される発想です。
また、ここまで来ると一人だけで診ていくのが難しい局面も増えてくるので、専門科コンサルトや入院精査の判断もこの段階の重要な「行動」になります。
まとめ:外来で意識したい3つのこと
最後に、自分が外来で意識していることを3つだけ。
- 「局在症状の有無」で最初に分岐させる。局在があれば、その臓器に直接攻めに行く。広く投げる前に、見えている手がかりを最大限使う。
- 局在症状がないときは、経過日数を軸にする。≤5日 / 5〜14日 / ≥14日 で、考えるべき疾患カテゴリそのものが変わっていく。
- 「期間が経過していること自体」が事前確率を変える。所見が出るのを待つだけでなく、経過日数そのものを次の鑑別の根拠にできる。
「何を疑うか」だけでなく「何をすべきか」を、局在の有無 → 期間軸 という二段階で決められると、外来診療の発熱がぐっとシンプルになる気がしています。
鑑別を全部覚えるのは難しい。でも”何をすべきか”を知っていれば、診断まで辿り着けることは多い。そんな思考の枠組みのひとつとして、この二段階アプローチが少しでも参考になれば嬉しいです。
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